【情報保障コラム】キャリア形成における“情報格差”の問題-前編-

更新日:2025-12-18 公開日:2025-12-18 by VUEVOマーケティングチーム

目次

 

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職場での情報保障に関して色々な方のお話をお伺いする中で、聴覚障がいの方が感じているリアルをもっと知りたいという声を聞くことが多くなりました。聴覚障がいの方の聞こえ方やコミュニケーションの取り方、感じ方は一人ひとり異なりますが、この記事を通して少しでも理解を深めていただけたらと思っています。

 

はじめに

はじめまして。岩川貴平と申します。私は生まれつき聴覚障がいがあります。感音性難聴で、障がい手帳の等級は3級です。

事業企画や経営管理に関わる業務に従事しており、日々やりがいと自己成長を感じながら業務に励んでいます。しかし、そのように感じるようになるまでには、多くの悩みや迷い、試行錯誤も少なくありませんでした。

この記事では私自身の体験をもとに振り返りながら、キャリア形成における“情報格差”の問題について綴ってみたいと思います。なお、連載形式でお届けすることとし、今回は前編です。

「要領が悪い人」といわれていた過去

過去、私は長い間モヤモヤし続けていた悩みがありました。それは「なぜ自分は、チームの中でうまく立ち回れないのか?」ということです。

やる気がないわけではないし、仕事の成果を出したい気持ちはある。けれど、結果として「要領が悪い」「指示待ち人間だ」と評価されたり、「気が利かない」と言われてしまうことがありました。

当初は自分の能力の問題だと思っていました。でも、よくよく振り返ると、そもそも“必要な情報にアクセスできていなかった”という構造的な問題もあったのではないかと感じています。

雑談という「情報の入り口」に立てない

チームで働いていると、何気ない雑談から生まれる情報、派生する情報が多く出てきます。たとえば、「あの仕事、納期ちょっと伸びそうだよ」とか、「〇〇さん、今別件で詰まってるらしいよ」のような話です。これらは一見、雑談のように見えて、業務上とても重要な情報です。

こうした第三者どうしの雑談は、健聴の人にとっては耳に自然に入ってきて無意識にキャッチアップできますが、私にはそれが難しい状況でした。MTGのように情報が発生することが予定されている形式であれば、聞き返して質問したり、議事録をもらったりするなど能動的にアクションすることができます。しかし一方で、情報が発生することが予定されていない形式 ―つまり、第三者どうしの雑談― は、そこで話されている内容自体を私は知らないので、聞き返すこともできません。たとえ、それが自身のタスクの優先順位に関わるような情報であったとしても。

もし、こうした情報にもアクセスすることができれば、少しは「気が利く人」としてチームに貢献できていたかもしれません。チームのなかで主体的に動こうと思ったら、自分の仕事だけでなく、他の人の動きも見えていなければならないのです。

「何のための仕事か」が分からないまま進める辛さ

あるとき、チームでイベント運営を担当していたときのことです。私は指示されたタスクをこなしていたのですが、その仕事の「目的」や「背景」が理解できていませんでした。

当時は要約筆記を使って情報を得ていたのですが、要約されてしまうがゆえに、どうしても情報量が足りず、「なぜこの作業をするのか」という仕事の目的・背景までは掴みづらかったことがありました。

結果として、自分では全力で取り組んでいたつもりでも、チーム全体の成果には結びついていないことが多くありました。仕事がなかなかチーム全体の成果に結びつかないことは、自身の能力が至らないという問題はもちろんですが、“情報の文脈”へのアクセスが不足していたことも一因だったかもしれません。

Businessman standing and gesturing with a cardboard box on his head with sad face

「何のための仕事か」が分からないまま進める辛さ

ある時期、私はチームコミュニケーションの少ない職務に担務変更されることがありました。会社としては、良かれと思って「配慮」した結果の措置だったと思いますし、当時は私も、会社の配慮に感謝していた部分もありました。

チームにおけるコミュニケーション機会は減り、聴覚障がいがあることによって困ることや悩むことは減りました。しかし、それと同時に職務の難易度も下がりました。つまり「成長の機会」が遠ざかってしまった瞬間でもありました。

自分はもっとバリバリと働きたい、チャレンジしたいという想いを持っていました。けれど、うまくチームコミュニケーションが取れないことを理由に、仕事の幅がどんどん狭くなってしまったのです。

これは“合理的配慮”の皮をかぶった、キャリア阻害の一例だと感じています(※)。

(※)業務レベルとキャリア志向のミスマッチを軽減するためには、なおのことコミュニケーションが重要となるのかもしれません

外資系をのぞく日本の多くの企業 ―特に大企業― では、さまざまな部門を異動して仕事の幅を広げ、仕事をとおして成長 ―オン・ザ・ジョブトレーニング― していく人材育成システムであることが多くあります。加えて、さまざま部門を渡り歩いたことによって培われる社内調整力も日本企業にとって必要な職務能力であることが一般的であり、つまり部門横断的な視点を持つ人が昇進していきます。こうした一般論を踏まえると、同じ部門内でのチームコミュニケーションすらままならない聴覚障がいのある社員は、どこまでキャリア形成に希望がもてるのでしょうか?

チームコミュニケーションを必要としない、誰もができるような簡単なルーティンワークをやり続けている限りは、キャリアアップは難しいのかもしれません。

“情報格差の解消”は、キャリア形成の鍵でもある

これまでの話は、私自身の「過去の悩み」です。

では、今はどうなのか?

この連載の後編では、私が現在使っている情報保障ツール「VUEVO」との出会い、そしてそれによって得られた“自己肯定感の回復”と“キャリアの再構築”についてお話しします。

情報保障は、単なる「配慮」ではなく、キャリア形成における「戦略」になりうる。

そんな実感を持てた今だからこそ、後編ではその変化と可能性を、ありのままに綴りたいと思います。

 

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